「現代のソドムとゴモラ」と英デイリーミラー紙にブッ叩かれたのも記憶に新しい、快楽と退廃の街パタヤ。ステータスを夜に全振りした結果、日中は完全に死んでおり、さりとてビーチとしての評価も今一つ。健全なるパタヤ観光を目指して郊外に出る人も多い中、灯台下暗し、時間の浪費にふさわしい街中の名所もあるので紹介したい。
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パタヤのパワースポット!? 『サンクチュアリーオブトゥルース』
1981年に着工し、今なお建築中であることから”アジアのサグラダファミリア”と若干盛り気味な異名をもつ寺院『サンクチュアリオブトゥルース』。
一人の大富豪が「地球上に天国、真実の聖域を創造する」べく私財をつぎ込んでいると聞いた時には、どんな変態だよ、だいぶキてんのかな?とチラっとでも思ったのを謝りたいほどに、釘を一切使わずに構成された木造建築は、荘厳にして圧巻。
壁面に施された彫刻も確実に息の根を止めにくる美しさ。でありながら、施設内ではボートクルーズや象乗り体験、伝統ダンスショーといった現世の現ナマが飛び交うアクティビティも多数用意されており、聖と俗がいい感じに隣り合うタイ的パワースポットとしても完成度は高い。
養鶏王が建てた金ピカ御殿『バーンスカワディ』
聖域からそう遠くない海沿いにそびえる宮殿『バーンスカワディ(บ้านสุขาวดี)』は、わずか数百羽の鶏の飼育から一代で身を立て、養鶏王となった中華系タイ人パンヤー・チョティタワン氏のお屋敷兼、
金満のテーマパーク。1997年のアジア通貨危機まっただ中に「こんな時だからこそ」とこちらの金ピカ御殿の建設に取り組んだというからやはり凡人とは一味違う。
以前は無料公開だったそうだが、野次馬が増えるに従い現在は入場料制に。見学のみ(500バーツ)から、見学+ダンスショー+豪華シーフードブッフェ(1200バーツ)まで、内容に応じて小刻みに変化する。
金が金を生む構図に嫉妬を抑えきれないままゲートをくぐると、13万㎡という広大な敷地に24もの建物がドーン、ドドーン……。
スケール感を全くつかみ切れないまま見学専用のカートに乗せられ冒険はスタート。呆然としてる間にも視界の端には、まばゆく輝く観音やビーナス像、エビなど食材を模した巨大オブジェがバンバン飛び込んでくるので油断は禁物だ。
そのスキマをマジもんの鹿や孔雀が悠然と歩く(ただし涼しい朝夕だけの出勤)姿は、これぞタイ屈指の財閥!サハグループ!と謎の感動が止まらない。
しかし何だろう、この激しい既視感は…。と考えていたら、焼肉のタレで有名な日本食研の「宮殿工場」とウリ二つ。
先方もまた現役の工場でありながら、ヴェルサイユをモチーフにした庭園や19世紀ハプスブルク家の食卓を再現した部屋を備えており、マッドさでは引けをとらない。
トップ同士もし会う機会があれば熱いハグを交わすことだろう。
『バーンスカワディ』内部に建てられた仏舎利!?ブッダバラミーコンベンションホール
仏陀の遺骨を収めたとされる仏舎利。真偽はさておき世界中に広く分布するが、その仏舎利を祀った祭壇がこちらにもある。2700人収容可能という大広間にミッチリ敷かれたゴージャス絨毯は毛足も長くふわっふわの心地よさ。随所に中国人観光客がゴロ寝してるので、踏まないよう気を付けて参拝しよう。
パンヤー氏一族が暮らす『慈悲の観音ビル』
こちらは「慈悲の観音ビル」と名付けられたパンヤー氏一族が暮らすメインビル。
エントランスにくまなく配置された金ピカ像と甲冑と造花の奇妙なコントラストが胸に迫るのは、自分にも脈々と流れる東洋の、ファンシー大好きアジア人の血ゆえだろう。
西洋人には理解できまい。
住居スペースはさすがに見せてくれない(が、一番凄そう)ので通過し、エレベーターで屋上まであがれば、パンヤーファミリーの守護神である観音像を祀った部屋、そして敷地の全貌とレムチャバン湾が一望できるテラスにたどり着く。
勝者の景色を堪能した後は、併設のお土産屋も要チェック。
金と赤で中華全開のバーンスカワディオリジナルTシャツがおススメだ。
養鶏王の鶏舎をジオラマで見てみよう
と、この辺ですでに疲労の色もあらわな客人に対し、パンヤー氏も激推しする健康飲料、ジャスミンライスミルクが振る舞われる。
チルアウトして正気を取り戻したら、パンヤー氏がオーナーを務めるタイ鶏肉大手『サハファーム』の歴史を学ぶフロアへ。
国内最大規模を誇る鶏舎をジオラマで再現しており見ていて飽きないが、何千羽と連なる鶏の大判写真を鑑賞しているうち、高い知能をもったチキンジョージ博士も一人くらい生まれているのでは?とドキドキしてくる。
ここからはさらに長い長い渡り廊下を行き、超貴重だという仏陀像が待つドームまで移動。しかし、これだけの財力があれば地下プロレスも鉄骨渡りも余裕で開催できそうなものだが、寄付や慈善事業に尽力されているようで、廊下の左右にはパンヤー氏宛ての感謝状や表彰状、各国の要人から贈られた記念品がズラリ。
感心して見ていると、突然ゴーーーッという轟音と強い風圧が。
意味がわからず固まってたら「はい、このエリアは当社の養鶏場で採用している換気扇を再現しています」と案内係。まさかのバーチャル鶏気分。至れり尽くせりだ。
巨大ホールでいただくランチビュッフェ
ひっきりなしに大型バスで乗り付ける観光客が、遠くが霞んで見える大ホールにみるみるうちに収容されていく。お目当ては特設ステージで一日二回上演される絢爛ダンスショー。美男美女で揃えた踊り子も楽団も、もちろんサハ専属だ。真のカリスマにだけ許された贅沢を食事とともに味わうなら、是非ランチブッフェ付きのコースで。パンヤー氏も時折、我らモブキャラに交じってここで食事を楽しんでいるそう。
サハファームの業績悪化が伝えられた数年前には、給料遅配にキレた従業員が養鶏場に放火したとの報道もあったりしたが、観音の慈悲パワーで持ち直したようだし財産も潤沢、第一これだけ日々の来場者があればとっくに安泰だろう。そんなゲスい銭勘定を胸に案内係にこれまでかかった費用を尋ねてみると、
「総工費?いくらか不明です。それにまだ建築途中ですから」
これでまだ!途中とか!失神!
「私の依頼主は急いでおられない、焦らなくていい」
――本家サグラダファミリアを設計した建築家ガウディも確かにそう言っていた。
依頼主は神。その狂気とも言える情熱も、全て神の思し召しであれば納得するしかない。神が作りし二つの建築物は意思をもった生き物としてここに君臨し、暗黒フォース渦巻くパタヤを照らしているのかもしれない。
サンクチュアリーオブトゥルースMAP
バーンスカワディMAP