リアルでもネットでも、「自分の意見こそジャスティス」の押しつけから生まれるバトルは数知れず。火事と喧嘩はSNSの華だが、常識をふりかざしたり、主張を譲れない者は「インターネット正義マン」「マナー警察」などと揶揄され、嘲笑の対象になってしまう。
が、そんなクールな者たちであっても、海外などで妙な寿司を発見するや、多くが「寿司ポリス」と化すことはよく知られている。
わたしも以前、セレブに人気という北米の店を訪れた際、ジャンルでいったら魔改造みたいな寿司が出てくるのを粛々と受け止めながらも「かなりいい刺身包丁でパイナップルをさばく陽気なメキシコ人板前」を目の当たりにした瞬間、脳内ポリスが覚醒、大音量でホイッスルを鳴らすのを止められなかった。
いまやタイ名物でもある常温放置のストリート寿司も、そのドギツい色味や珍奇なネタ、衛生管理に至るまで、善意の寿司ポリスに総ツッコミされているが、なかには「まァ、これで一貫5B～10Bならアリ」「極彩色だけど食えなくもない」などと、容疑者を気づかう余裕をみせる者もチラホラ。
これは、どんなにハンバーグやマヨコーンを乗せまくろうと日本の「寿司」とチープな「SUSHI」には、精神的にも物理的に距離があるがゆえの余裕だった。ところが、この両者の距離をグッと縮める存在が、人知れずタイの路上に生まれていたのだ。
5年前、プラカノンに現れた本格屋台寿司『DOMON SUSHI』
ソイトワイライト解体をいち早く伝えるなど、ニッチなタイ情報に強いブログ「バンコクプラカノン隠れ家的ゲイ居酒屋（雅重）の呟き」を巡回中、気になる記事を発見（ちなみに居酒屋雅重もかなりの良店！）した。いわく、その寿司屋はタイ人経営のローカル屋台ながら、注文してから握ってくれて味も抜群。ネタごとに包丁を使い分けるこだわりようで、一貫20B（約70円）～と破格。これは……行くしかない！
ソッコーでスクンビット71ソイPridi2を進んで中ほどの「DOMON SUSHI」に駆け込むと、ちょうど仕込みの真っ最中。店主の面持ちは真剣そのもので、否が応でも期待値は高まりまくる。とはいえどこか半信半疑のまま、ポリスの職質気分でオーダーしたのは海老、しめ鯖（すべて一貫20B）、サーモン、チーズロール（一貫25B）の４品。
プラカノン駅徒歩圏内だが、店主によると日本人はあまり来店しないとのこと。
屋台の横には写真メニューがぺたり。
さっと炙れば脂の甘み、うまみが倍増。まさか路上に炙り系ネタがあるとは……
プラ椅子に腰かけその場でイートインも可能。醤油と本わさび、ガリはサービスだ
店主はコクッと力強くうなずき、明らかに「仕事」が施された鯖をケースから取り出し、モーションキャプチャーが取れるほど全身を使った握りっぷりを披露。あしらいのレモンを薄切りにし、仕上げにバーナーでひと炙り。寿司職人コンクールなら大きな拍手が巻き起こり、審査員が悶絶する場面だ。
毎日市場へ出向き新鮮なネタを厳選
はやる気持ちをおさえつつ口に放り込めば、いい塩梅に〆られたソフトな鯖の身がほろりと口の中でほどける。くさみのないサーモンも、プリっと歯ごたえを残した海老も新鮮そのもの。飛び道具かと思われたチーズロールも酢飯によく合う。シャリはやや大きめで柔らかく、タイ人ローカライズを感じるが、江戸時代の立ち食い寿司もおにぎりサイズと発覚した今、むしろ江戸前の源流を勝手に感じ取りながら、あっという間に完食。
あまりの完成度にマグロの握りも追加オーダーすると「すいません、今日はいいマグロが手に入らなかったもので」ときっぱり。なじみの市場でその日一番のネタを見極め、納得できなければ仕入れないと。まじかよ、タダモノじゃないな！
それもそのはず、店主のエックさんは、在住者なら誰もが知っているトンローの高級割烹店の出身。５年ほど前からこの場所で毎日休みなく、割烹仕込みの寿司を提供しているという。
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その卓抜した味覚で将来を嘱望されていた宇田が、美食俱楽部を辞めて開いたのはなんと大衆向けのハンバーガーショップ。「美味しいものを作って大勢の人に喜んでもらいたんです」と宇田。高級店の料理は確かに素晴らしいが、それが一部の人間しか享受できない現実に苦悩しての決断だった――。
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いきなりの「美味しんぼ」話で恐縮だが、９巻収録「ハンバーガーの要素」は海原雄山のツンとデレが爆発してる神回なので、未読の方はぜひ読んでほしい。高級店からの転身組であるエックさんも、宇田と同じ気持ちだろう（妄想）。
それを裏付けるかのように、さっきから原付バイクに家族全員搭載したタイ人が、ひっきりなしにやって来る。他のストリート寿司と比べたら明らかに割高にも関わらずだ。包丁一本、ここまで大衆に愛される店に育てあげた苦労がしのばれ、寿司漫画にありがちな人情話をこれまた勝手に想い、涙。
しかし。どうにも奇妙なのは店名だ。ドモンって、日本語でもタイ語でもなさそうだし……まさか土門拳？寿司に対峙し、その根幹に肉迫しちゃう人なのか？エックさん……。
由来を尋ねてみると「あ、ドラえもんが好きなんで」と照れ笑い。確かな腕前だけでなく、萌え要素まで兼ね備えた名店なのであった。
【SHOP DATA】
DOMON SUSHI
TEL：084-728-5412
OPEN：17:00-23:00（基本無休）
（店名がGoogleマップに登録されていませんので近くにあるお店の位置情報を載せています）
屋台寿司『DOMON SUSHI』を動画でも取材しました
本記事で取り上げた屋台寿司『DOMON SUSHI』を、動画でも撮影しYouTubeにアップしています。
動画ではマグロやアボガドなど、記事内では紹介できなかったネタも登場！
